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ズボンズのリーダー,ドン・マツオの思考あれこれ。
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メンフィスは、どこ。(ZOOBOMBS American Tour #19)
 テネシー州Memphis、何度この地を思い、憧れてきたであろうか。「メンフィス」というその響きの中には、ファンキーで埃っぽく、がさつでいかがわしいマジックのような本物感がある。それはボクが好きになってしまう音楽のコアが存在する。ボクは黒人のようにファンキーではない。ボクは白人のように大らかではない。また、その二つの人種間の摩擦から生じる攻撃性を持たない。ロックンロールはその二つの人種のぶつかり合いの爆発と融合からアメリカで生まれた。彼らはなんなくそれをやることが出来る。ボクは、出来ない。ボクはその文化を良く知っているし、学習もしてきた。しかし、それがどのような風土から生まれたものなのかは、現地に降りてみて初めて肌で感じるものだ。N.Y.C.でそれを感じ、シカゴで、サンフランシスコでもそれぞれ感じるものがあった。自分でもこんなものかとなんとなく分かってきたつもりだったのだが、メンフィスで感じるのは、そのいずれとも違うもっと根源的でリアルなものだ。

 メンフィスは黒人が60%以上を占める南部の都市である。Motelにチェックインすると、ボクら以外のほとんどが黒人だった。テキサス州には沢山いたヒスパニック系の人は見当たらない。街は昔の雰囲気を留めており、スーパーではサザンフライドチキンやレバーステーキ、豆料理などの南部料理・ソウルフードがお弁当になって売られている。やはりほとんど黒人か、うらぶれた白人しか見当たらない。(もしかしたらボクらがいたエリアが偶然そういう場所だっただけかもしれないけれど。)街からロックンロールの香りがする。ロックンロールに匂いがあるなんてボクは知らなかった。あぁ、ここで生まれたんだなと感動に近い思いがする。

 会場となるMurphy'sは、ブルース・ブラザーズや色々なアメリカ映画に出てくる南部のバーそのものといった感じで、地元のおじさん、おばさんや、ちょっと若者がいるような場所である。カレッジの学生や、インディロックファンが集まるような場所ではない。共演のThe Rockcity Angelsはなんと30年のキャリアを持つ、Geffinからリリースしてジミー・ペイジのフロントアクトをやったこともあるという地元で知られた存在である。(80年代末には来日もしたらしい。)ヴォーカルの他にギターが2台、ベース、ドラムスにハモンドB-3と、本物感バリバリのBad Boy ロックンロールバンドであった。(ヴォーカルのBobbyは、ちょっとジョニー・サンダースみたいな感じである)彼らを目当てに往年のロックファンのアメリカンなお兄さん・お姉さんが来ている。まいったなぁ、とボクは思う。一体こんな人達を前にしてどんな演奏やればいいのだろう?

 とは言え、いずれにしても、ボクらはボクらの演奏をとことんやるしかないのである。何かに合わせてやり始めると、延々と間違った方向に行き続けるだけで、結局自分達の音楽が気に入ってもらえなければ、それまでじゃないか。それに、時にPunkだとか、Funkyだとか、Experimentalだとかなんだとか言われようと、ボク自身はズボンズの音楽はロックンロールの本流の中にいると思っている。ロックが死んだとか、解体しようとか、新しいものを作りだそうだなんて思っていないのである。ボクは全面的にロックに帰依している人間だ。アメリカの音楽の恩恵を受け憧れ続けた、東の果ての国の小さな4人組はここに来れたことに感謝している。また、ロックンロールが、「メンフィス」のイメージがボクの人生をどれだけ豊かにしてくれたか。

 何と言ってもここはアメリカなのである。どのようなものであれ、良いと感じたものであれば絶賛してくれる国の人々なのである。その瞬間、人種も宗教も価値観も超えて受け入れてくれる国なのである。ズボンズの演奏は大いに気に入ってもらえたらしく、ボクは最高にハッピーな気分を味わった。ここで生まれた音楽を、ここを知らないで、どうにか本物に近づこうと手探りで、精一杯やってきた。ボクも年だけは取ってきたけれど、ロックンロールのレジェンドの前ではまだまだ子供にすぎない。無邪気に喜んでも恥ずかしいことはないだろう。なんだか、またここからスタートって気分だ。一体ボクらの旅はどこまで続くのだろうか。
by dn_nd | 2010-11-21 23:52
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