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ズボンズのリーダー,ドン・マツオの思考あれこれ。
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安かろう、悪かろう。(ZOOBOMBS American Tour2010 #32)
オハイオ・ツアーに入ってから、毎回ヴェニューで食事が出される。これはボクらにとって、毎日の大きな楽しみの一つである。(ハコメシと呼んでいる。)3日前はハンバーガー、おとといはメキシカン、昨晩はピザであった。ハコメシが出される、というのは大抵そのヴェニュー自体がバーとレストランやグリルを兼ねている場合で(つまりおとといはメキシコ料理のレストランでライブだったのです。)、その辺で宅配ピザをとるのとは違って、実に力は入っていて美味しいものばかりである。

 人によってはアメリカの食事を「大味」とか言って嫌う人もいるが、ボクは毎日こちらで食事をしていて逆にアメリカの食べ物の質の高さを感じている。もちろん、徹底的に安く量をかせぐ為に作られたようなファーストフードもあるが、普通に専門のレストランで出されるハンバーガーは分厚いパテにピクルスや手作りのフライドポテトが山盛りについてきて$5~6で食べられるし、昨晩のAthensのThe Unionで出たのは、全粒粉の生地の薄いクラストのピザで、フレッシュなマッシュルームとナチュラルチーズがのっていて、びっくりの美味しさだった。しかしこれらはアメリカでのレギュラーな食事で、特別なものではない。このようなものを日本で食べるとなると、すぐに2000円くらいかかるのではないか。日本もデフレで色々なものが安くなり暮らしいいように思われているが、単純に安くできる粗雑なものを安く提供しているだけあって、牛丼がいくら安くなろうとも、所詮は雑な食べ物でしかない。(少なくともボクは牛丼で豊かな満足感を味わったことはない。むしろいつもしけた気分になるだけである。)昨晩の味わい深いピザを食べながら、やはり日本は戦争に負けたんだなぁ、などとメンバーで話たりした。

 日本の中にいると、誰もが自分達の食事を貧しいものだとは考えていない。むしろ最近は豊かになったと感じていると思う。しかしボクにはどうもその辺が疑問である。確かにスーパーやコンビニには安い食品やデザートなどが売られているが、それらは安いコストで「なんとなく」の満足を与える為に作られたものである。(本物のティラミスから程遠い「ティラミス風の」デザートなど。)アメリカでは牛肉はドカッとしたサイズのステーキが$5出さないで買えるし、ベーカリーでライ麦の大きなパンも$2くらいのものだし、ドーナッツはどんな種類のものでもフレッシュでサクサクのものが$1もしない。つまり、日本では安いものは安いと言えるが、それらは決して「豊か」さを与えてくれるものではないし、「豊か」なものを手に入れるには、それ相応の額を払わなければならない構造になっているように思える。(だからボクはほとんどのものを自分で作らなければならない羽目になる。)また、チープなものに慣らされた感性は自ずとチープなものになっていく。本物の小麦の味のするパンを買う為にボクらはどこまで出掛けていくらかけているのか。アメリカではどこででも安価で手に入るものなのに!

 それはもしかしたら政府に騙されているのかもしれないよ、オレ達は経済的には潤っていて、まるで「豊か」に暮らしていると思わせておいてさ、偽物のゴミみたいのを食べさせられているんだ、国民の「豊か」な感性を育てようなんて思ってないよ。Pitt、だからコンビニの弁当とかクックドゥなんか買って喜んで食べたりしていると、大したミュージシャンにはなれないんだよ。感性がチープになっていくだけだ。稼ぎの問題じゃないんだよ。心がチープになってしまったら、人間は消費するしかないつまらない生き物になってしまう。チープな心はチープなものしか創造出来ないよ。チープな人間がチープなものを作り、伝えていって、一体どんな世界になってしまうんだ?

 昨晩のAthensでのライブ。明らかにツアー終盤の現象である「疲れ果てていても、ライブが始まるとものすごい速さで沸点に達し、めちゃくちゃに暴走して爆発して終わり」というものだった。地図でもはっきり確認できないような小さな町アセンズでKidsは我を忘れて、最後は何故かボクは担ぎ上げられて空中を泳がされていた。そりゃそうだ、オレ達はしけた日本でずっと戦い抜いてきたバンドなんだぞ、キミらアメリカ人にはこの大変さは分からないだろう、right?

 あとライブは2本。すでに次のツアーの話が進んでいる。まぁ、とことんまで行ってみよう。
# by dn_nd | 2010-12-04 09:38

Don't give up。(ZOOBOMBS American Tour2010 #31)
 昨晩シンシナティでのライブは、フロアだったお陰でとても動きやすく、より躍動する演奏だった。案の定ボクはもう水一滴も絞れないほどくたくたに疲れてしまい、Motelの部屋に戻りシャワーを浴びてさぁ眠ろうとしても、眠れないのである。目をつぶり、様々なイメージがランダムに通り過ぎるのを感じながら数時間動かないでいたのだけれど、結局ベッドを抜け出してしまった。身体は明らかに睡眠を要求しているにもかかわらず、ボクの中の何がそれを阻害するのだろう。ツアーも終わりが近いし、眠りを妨げるような悩みは何もないと思うのだが、ボクの脳は睡眠を許可せず、カチカチと勤勉に働き続けているのである。ふむ。

 若い頃はもっとひどい不眠で、ツアー中やレコーディング時に眠れないことは多々あった。その頃の習慣でボクはアイマスクと耳栓なしでは今でも眠れない。おそらく一種の強迫観念症なのだろうとは思うのだが、リラックス、リラックスと頭では分かっていてもなかなか脳の命令中枢はだまされてくれない。ボクは放っておくことにした。一日や二日眠らなくとも死ぬ訳じゃない。ライブだって(足はもつれるかもしれないが)いつも通りやれるはずだ。うーん、たぶん。

 眠れないでいた時にベッドの中でこのツアー中にめぐり合った人達の事を思い出していた。ミネアポリスで、ファーゴで、オークランドで、オースチンで、メンフィスで、NYCで邂逅した様々な人々、目撃した様々な光景。それらは古い映画の世界の出来事のようにその時にはあった質感を失いつつある。確かにボクはそこにいたのだが、もはや手で触れることができるようには思い出せない。それでも記憶は時にフラッシュバックし、ボクがアメリカを感じていた事を思い出させるであろう。それはどんな状況でもへこたれずやっていた自分を再起動させてくれるに違いない。

 昨晩のライブが終了した後、沢山の人々に握手を求められた。最後にやってきた眼鏡をかけた青年が、さっき見たライブは本当に素晴らしかった、他のどんなものとも比較出来ないくらいだった、と言ったあと真剣な目をしてボクの肩に手を置き、"Please don't give up. Keep on going. Same style, same way."と念を押すように何度も言った。彼は何を伝えたかったのだろうか。ボクのパフォーマンスに刹那的なものを感じたのだろうか。ボクがもう10年以上も同じようにやっていることを彼は知らない。それでも、彼の真剣な眼差しはボクのこころに重い杭を打ち込んだように思う。そしてこれもまた日々が経過していくにつれ質感を失っていくに違いない。それでも打ち込まれた杭は抜け落ちることはない。しつまでもしっかりとそこに留まって、ある時ボクに存在を思い出させるのだ。"Please don't give up. Keep on going. Same style, same way."
 
 彼は何か別のものが姿を変えてメッセージを運んできたのかもしれない。
# by dn_nd | 2010-12-03 08:21

ゴールは幻のままにして。(ZOOBOMBS American Tour2010 #30)
 ツアーも残すところあと4回のライブになった。一月ちょっとの間に27本もショウをやるというのはさすがのアメリカ人の中にも驚く人がいる。ボクら自身はすっかりペースに慣れてしまって、ここのところ3時間程度のドライブが続いたりしていると何となく余裕があるような気すらしている。(今日は6時間走るのだけれど)それでも疲れは預金の利子のように少しづつ溜まってきているので、この時点で終わりが見えているのはありがたい。

 しかし、とボクは考える、実際に自分は日本に帰りたいのだろうか。とりあえずこのツアーを終了させるという意味では区切りをつけるためのゴールの設定が必要だけれど、心から帰りたいのかと考えると、正直言って帰ってまた日本のマインドセットの中に戻るのは気が重い。アメリカに残りたい訳ではない。しかしどうしても多様になり得ない自国に戻るのは、この多様性を経過してきた後では自分のどこかに蓋をしなければならない部分があって、窮屈なものである。一月以上異国で思考したが、帰ってきて何も変わってないことを発見するだけかもしれない。

 Kalamazooにローカルのドーナッツチェーンがある。街はずれにけっこう大きな店舗を構えていて、なんと24時間営業している。(ボクらはMotelにチェックインする前にドーナッツを買い、ライブが終わった午前2時半に店の前を通ったら、本当にまだ営業していた。)売っているのは、ちょっと信じられないくらい種類があるが、基本的にドーナッツだけである。このような店が成り立ってしまうところがすごいなぁアメリカは、と思う。食べたドーナッツは、有名なチェーン店のものは比較にならないくらいフレッシュで(しょぼくれたミスドのチョコファッションの情けなさよ。)、大きかった。お店で一人イートインしているおじさんがいて、自分はKalamazooに仕事で来る日の週に3、4回はここでドーナッツを食べるのだと言っていた。野球帽をかぶり、ネルシャツを着てオーバーオールのジーンズを穿いている、実にミシガン州的なおじさんであった。

 ライブをやる場所はグリル&バーで、お店の食べ物をどれでも注文していいと言われる。ほとんどがバーガーだが、佐世保バーガーが可愛らしく見えてしまうほどの厚さ大きさである。それにきゅうりを縦に4分の1に切ったピクルスと山盛りのフライドポテトがつく。それらをもりもりと食べ、ライブを終える。来ているお客は決して若い人ではない。MCで「どうもKidsがいるようには見えないんだけど。」と言うと、ワハハと笑っていた。終演後にそれらex-Kidsの人々が握手を求めてくる。どの手もボクの1.5倍はありそうな、アメリカ的な生活感を伴った手である。「You guys、このままRockし続けろよ。」と言う。何年やってると思っているんだと思いつつ、笑顔で「また戻って来ます。」と答える。外は零下の氷の世界であった。

 今のところ、ボクの現実はツイストしたままである。ゴールは見えているが、どことなく現実感のない幻のようにも感じる。ひとまずはこの状態のまま漂っていよう。
# by dn_nd | 2010-12-02 08:50

「本物」を身近に。(ZOOOBMBS American Tour2010 #29)
 クリーブランド美術館へ行く。古くは1700年代のから印象派の絵画、ウォーホールなどのポストモダンアートまで所蔵しており、なんと閲覧は無料である。それも大きな空間の中で一流の作品群がゆったりと飾ってあり、柵もないので手で触れることだってできる(ウソ。触ってはいけない。)「こんなの日本ではありえないよなぁ。」と思いながら、ありがたく観覧させてもらった。

 正直言って、ボクは美術にまったく詳しくもなく、マッタちゃんに誘われて時々(ほんの時々)しか美術館に出掛けないし、行ったところで混雑してるし見たのだか何だか分からないような感じで、むしろその後に上野で食べた甘味の方をよく記憶しているといったクチである。しかしやはりじっくりと間近で「本物」を見るというのは、それまでの経験とはまったく違うものであった。ボクはもう圧倒させられてしまった。そうか、絵画はこうやって見るべきものなんだな。

 モネやゴーギャンなどの印象派の作品もピカソの作品群ももちろん素晴らしかったのだが、自分でも意外だったことにボクが思わず動けなくなってしまったのはもっと古い写実主義の頃に描かれた作品群だった。正直に白状してしまうと、「なんだただの肖像画や風景画ではないか。」と思っていた。しかし実際に目の当たりにするそれらは、一体どうやったらこれほどの絵が描けるのだろう、どれだけの修練と眼から入る情報をアウトプット出来る技術とがあるのか、とただただ敬虔な気持ちにさせられることになる。それらはほとんど3Dといっていいような質量と存在感を持つ。絵の中で手前の黒と奥の黒とでは、まるで違う黒である。その微妙な世界を見、理解し、表現する、という高度な技術は、24時間ヴィジュアルにさらされて、大量のカラーに囲まれている現代の我々には、最早持ち得ない能力なのかもしれない。

 当時これらを目の当たりにした明治の日本人の画家達は、余程驚かされたことだろう。そこから近代日本の美術の歴史が幕を開けるのだが、そもそも日本人は水墨画にせよ浮世絵にせよ、2次元的な表現を得意とするように思える。その後の日本人の作品で世界に流通したものがどれだけあるのか、興味深いところである。というのも、ある意味では音楽も同じような部分があって、(ボクが聴く限りでは)日本人のレコードは欧米人のそれに比べて奥行きや立体感などの「3D的」な要素で、常にもう一歩及ばないところがあるように思えるからだ。しかしそれは単純に同じことをやろうとしているから思うことで、例えば写実主義の作品群と浮世絵を比較するのが愚かなように、それぞれの得意な方法をとることでまったく違う価値やオリジナリティが存在出来るからである。及ばないところを努力するのではなく、得意な部分をもっと自覚し極めていくことはできないか。(いずれにしても、洋楽的なものの真似をして喜んだりするのは速攻やめるべきである。)

 あのような「本物」の作品群を身近に接することのできることがどれだけの感覚をアーティストに寄与するか計り知れない。印刷されたもので分かるのは実際の2割にも満たないように思う。「本物」に接した延べの回数、それに影響され吸収することで欧米のアートは地続きで進化していったのだろう。それはとてもまっとうで豊かな進化である。本流があればこそ、オルタナティブが成立できるという意味でも。音楽も同じで、日本では「本物」を知らないことで愚かなものを蔓延させている。無知は罪である。美術館に於いては、作品は柵で囲まれ間近で見れないし、ましてや見たい時にいつでも気軽に何度も見れるようなものではない。(実際ボクはガムを噛んでいただけで係員に怒られたことがある。日本人の道徳観は個人に帰するものではなくて、徹底的に管理、管理なだけである。)何であれ日本においては「ごっこ」状態が許されているように思える。(アートごっこ、洋楽ごっこ。)まったくもって、つまらないもんだ。

 Toledoでのライブ。1曲目Way In/Way Outからお客は嵐のように盛り上がり、何故か1曲目が終わったばかりなのに「アンコール!アンコール!!」と叫んでいる。されに呼応してバンドの演奏は高く高く舞い上がっていった。ボクはもうぐったりしてしまった。明日のことは考えない。今日ステージで死んでしまうのだ。あと5回、再生すれば良いのだから。

 
# by dn_nd | 2010-12-01 09:08

サンクス・トラブル・デイ。(ZOOBOMBS American Tour2010 #28)
 北米ではよくある話だと知ってはいた。しかし自分達の身に起こるとは、ちょっとも思っていなかったらしい。しかし起こって欲しくないことは、大抵間違いなく起こる。車に戻ってみると、後部座席の窓ガラスが粉々に砕け散っており(ボクの座る席だ)、ボクのリュックが外に投げ出され、中に置いてあったスーツケースやダッシュボードは隈なく探られていた。あの冷静なムー氏が若干青ざめた顔をして、「車中荒らしされている。」と言った時も、ボクは何のことやら事実を受け入れていなかったが、パーキングへ出向いてみると、見事にやられていて、かえって現実感がないような気がした。結論としては、どうしてか盗まれたものは何もなく、ガラスが割られていた以外には何の損傷もなかったので、ちょっとの間この寒空の下、オープンカー気分で走らなければならないことを除けば、まだラッキーだったと言えるだろう。車中には楽器も貴重品も残してなかったし(さすがにボクらもそこまで無用心ではない)、スーツケースの中にも大量のボクの顔が印刷されたTシャツしかなかったので、コソ泥氏もあきれて何も持っていかなかったのだろう、きっと。

 レンタカー会社に持っていくと、即座に別の同じ車に変えてくれたので、サウス・ダコダのフリーウェイの途中でのパンクよりは大変ではなかったし、ボクら自身もメンタル的に車のトラブルには耐性がついてきているのでパニックに陥ることもなく平然と「まぁしょうがないね。」ということで、いつも通り走ることにする。最初、警察に届けようとしていたのだが、現場にいた現地の人が口を揃えて「そんなこと止めとけよ。警察なんかまったく役に立たないぜ。4時間あれこれ尋問されたり調書をとられたりして、結局何も戻ってきたためしがないよ。無駄ムダ。」と言うので、そんなものかなと思い、警察には届けなかった(いずれにしても何も盗まれてはいない)。ボクらに時間を無駄にするオプションはない。(考えてみれば、東京でちょっとした事故にあったときも警察は何の役にも立たなかった。このツアーでも不快にさせられる時こそあれ、彼らが「役に立つ」なんてことがあったためしがない。)

 そして、この車でなんと3代目なのである。最初の車はサウス・ダコダでパンクした後、L.A.でエンジンオイルトラブルがあり交代。2代目は同じ車のヴァージョンアップしたものでDVDがついていたり、シートヒーターがあったり良かったのだが(ラジオの音は今ひとつだったけれど)、テキサスでタイヤの空気が抜ける症状が出てタイヤ交換を余儀なくされ、窓ガラスを割られてしまい退場、3代目"サンクスギビングデー号"の登場となる。レンタカー会社が貸すのは基本的に整備された新しい車なので、エンジンなどの機関のトラブルはないだろうと思っていたが、この30日未満に起こったトラブルの数々は、ほとんどフルコースのようなものである。日本にいるとき、ホリデー号は5年の間にトラブルは5回ほどしかなかったと思う。これだけ頻繁にトラブルのはアメリカでは当たり前のことなのか、それともボクらが不運なだけなのか分からないが、いずれにしてもトラブル慣れし、色々と自分達で対処できるようになったのは貴重な財産となるだろう。(これらは今後もアメリカで活動するならば間違いなく起こるであろう。ふぅ。)ありがとう、トラブルよ。それでもあまりに短期間に起こりすぎなんだけどな。

 昨晩の熱狂のトロントのあとほとんど睡眠がとれず、トラブルもありフラフラになってクリーブランドに辿り着いた。ステージではとにかくやるだけである。ズボンズの演奏はますます混沌さを増し、より質量を持った生き物になりつつある。ホテルに着いたのは午前3時近く。ムー氏は眠すぎて外人のような顔になってしまった(?)。あと6回。やってしまおうぜ。
# by dn_nd | 2010-11-30 09:25
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