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ズボンズのリーダー,ドン・マツオの思考あれこれ。
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D9T#5 「いつも夢を見て。」
 5日間のソロライブと長崎帰省を兼ねたツアーを終えて東京に戻ってきた。未だ関東は放射能の恐怖下にある。つい何時間か前までいた九州とは空気がまるで違うので、戸惑いがある。お土産で重くなった荷物を抱え、午後のそれなりに結構混んでいる電車に乗って自宅へと向かう。どうも今回のツアーでは東京で生活することへの疑問も一緒に持って帰ってきたらしい。さて、ボクはどうするのか。

 とりあえず、書けなかったツアー日記の続きを。

 土曜日、大学の頃の友人二人との一夜が明け(二人のいびきオーケストラが一晩中鳴り続けていた。聴いてみるといびきの音は、実に多彩である)、せっかくなのでスタジオにでも入ろうじゃないかないかと、出発する。外は、空から雷様が消防用のホースでザブザブ撒いているのではないか、というほどの大雨である。人吉にはスタジオがないということで、八代市へ。スタジオのない場所でキッズはどうやって練習しているのか、と聞くと、自分の家に機材を持ち込んでやっているのだ、とのこと。考えてみたら、ボクも一番最初に"エレキ"でバンド練習したのは、長崎のドラムを持っている友人の部屋で、大きいラジカセをアンプ代わりにしてやったのだった。(ちなみに最初にやった曲はUFOの"ロック・ボトム"である。ハハハ。)友人はギターを学校に持ち込むのがバレるのが怖くて、ネックを取り外してバッグにしまって持って行って、練習場でまた組み立てていたということである。人が少なくて、何も手本がなければ、そうとうワイルドなことをやってしまうものだ。

 八代市のスタジオは楽器屋と本屋が一緒になった店の奥に一つだけ部屋があり、マイクの音量調整は外から店のおやじさんがやってくれるという、やはりこれもワイルドなものだった。ここでこの地のキッズ達は練習しているのかと思うと感慨深い。ロックンロールはメンフィスのサン・スタジオから世界へ大きく飛び火して、熊本・八代市の楽器屋奥まで到達した。これほどの達成と考えると、何故かは知らないけれど、もっと自分も頑張らなければならないのではないかという気がする。それで、とにかく3人でStonesやらWhoやらBeatlesなどを演奏する。(ボクはドラムスである)そのまま近くの喫茶店(カフェでなく)へ行き、2歳年上の"先輩"にワッフル小倉&アイスクリームのせを奢ってもらう。これまた学生のままである。この先輩の実家は愛知県で喫茶店をやっており、老後はこの3人で喫茶店を継ぐ予定なのである。年を取った3人の男がやる喫茶店。ひとりは丸く、一人は痩せており、もう一人はその中間くらい。暇な時には古ぼけた客席に腰掛けて、オペラを聴くのである。

 そのまま今日の会場となるジャンゴへ。この日はボクがプロデュースしたザ・フルーツのアルバム発売記念のイヴェントなのである。音源は昨年の夏には完成していたのだが、ようやくのリリースとなった。フルーツは大学生のサークルで知り合った三人が、ただ好きだからという理由で、特に成功やら東京進出やらも考えず、地元で10年近くやり続けているバンドである。実際そのように活動出来ているグループが、東京にどれだけいるのかと思うと、やはり地方でワイルドに存在出来ることの強さを感じる。何といっても、東京は右肩上がりの成功や成長への都会的プレッシャーが強すぎて、「楽しいからやる」というシンプルな考えが、なかなか通用しない場所なのであろう。また、都会的な空気/考え方が情報のグローバル化によって、全国に広がっていっているのは、実に大きな問題であり、損失であると思う。ワイルドにやっていけないバンドは、その音楽もまた、どこにでもあるような骨抜き・肉抜きされたものになってしまう。(さて、一体何が残っているのだろう?)

 そのワイルドな場所で、これまで誰も指導してくれなかったバンド、ザ・フルーツだから、演奏のイロハも自己流で、まったく良く分かっていない。リハーサルではちょっと苦労して冷や汗をかいていたのだけれど、その時その場にあるリソースで最大限のパフォーマンスをやるのもまた、ボクのミッションである。技術や知識のないミュージシャンと一緒でなければ何も出来ない、というのはボクの沽券に関わる。さて、どうしようか。これはつまり、同じ言語を持たない者同士が、稚拙なコミュニケーションをとるような事である。更に、稚拙な言葉しか共有出来ない者同士が、濃密なコミュニケーションを図るにはどうしたら良いかという、トライアルでもある。こちらの意図を伝えるには、相手の分かる方法で持って臨むしかない。バンドには出来るだけ分かり易く、観客にはごくごく自然に演奏が成り立ってるように見せる必要がある。OK、腹を決めようではないか。

 しかし結果としてライブは、フルーツそのものだけの演奏を含む総計2時間に及ぶ大盛り上がりのライブとなった。正にワイルドそのものである。「音楽さん」は楽しい場にこそ居続けてくれる。「音楽さん」は成功や、薄っぺらな見せかけの格好良さには興味を示さない。常にその本質的な「ワイルドさ=自然」をこそ愛すのである。自分を愛してくれるものを愛してくれ、自分を喜んでくれるものを喜ばせてくれるのである。もう一つ、夢を見たい者だけに、夢を見せてくれると付け加えたい。良いライブをやることは夢を見ているのと似ている。そこには何か大きな意味が隠されている筈だが、本当のところは何だかボクらには理解出来ない。しかし、この「夢」をバンドも観客も共有することによって、それぞれの個人のデーターベースに何らかの形でファイルされ、それぞれの人生にひと味加えることになるだろう、きっと。

 終演後、ザ・フルーツの記念すべき1stアルバムは飛ぶように売れていた。本人達も大変喜んでいた。ボクも言うことはない。ウィスキーを飲んで、次の夢見に備えるだけである。
by dn_nd | 2011-06-17 14:54
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